ドラおじコラム

薬剤師の転職、コロナ禍中はやめておいた方が良い? 転職のプロたちに聞いてみた

コロナ禍中の転職って、どう?

こんにちは、梟屋の鈴木です。

さて「コロナ」という単語が毎日イヤでも目に入ってくるようになって久しい昨今ですが、いま、転職ってしても良いものなんでしょうか?

薬剤師さんのなかには、新型コロナの影響で勤務先の経営が危なくなったので転職を考えている方。あるいは、時期的・年齢的にそろそろ転職を考えていたけど、タイミング悪くコロナ禍が来てしまってどうしよう……という方など、様々いらっしゃるかと思います。

こういう時ってやっぱり、転職はしないほうが良い? それとも、まったく気にせず転職しちゃって大丈夫でしょうか?

今回は、当サイトを監修しているドラおじさんに加え、薬剤師転職のプロをもうお一方お招きして、「コロナ禍中の薬剤師の転職」というテーマでオンライン対談をしていただきました。

もくじ

登場人物紹介

ドラおじさん
薬剤師専門の大手人材紹介会社に勤務していたアドバイザー。現在は独立し、本業の傍らで当サイトでの転職ご相談対応等を行う。(詳細はこちら
MCS星谷さん星谷(ほしや)さん
転職サイト「キャディカル薬剤師」を運営する、株式会社MCSのコンサルタント。ご自身も薬剤師であり、大手調剤チェーンでの人事経験も持つ。(詳細はこちら
鈴木鈴木
このサイトを運営している、都内在住のフリーランス。娘の保育園で感染者が出たりしててんやわんやしてます……。

結論からいうと、雇用が安定している方は、今は転職を急がないほうが良いです。特に正社員は、経営が傾いていない限り基本的にはステイですね。

私も同意見です。いまは慌てて転職を考えるよりも、いまの職場でできる範囲で、自分の仕事を掘り下げる努力をしたほうが良いと思います。

星谷さんは、ご自身が薬剤師であると同時に、奥さんも薬剤師でいらっしゃいますよね。

はい。妻の勤務先はメンタルと耳鼻科のクリニックマンツーなんですけど、コロナの影響をかなり受けているらしいので、今回はその辺りの話とか。あと私のまわりの薬剤師から聞いた話も踏まえて、お伝えができればと思います。

コロナ禍中。薬局の求人って今どんな感じ?

薬剤師の人材業界って、コロナの影響を受けてどう変化しているんでしょうか。

大きく変化しています。まず企業側の変化ですが、求人ニーズが明らかに減っています。特にパートの求人数が激減していて、扶養内パートの求人なんかはもはや無いも同然、あったら奇跡みたいな感じがしています。

加えて、正社員転職の年齢制限が厳しくなっています。50代、60代のニーズは以前よりもさらに減っていて、コロナ前の2分の1くらいになったという話を聞いています。

採用できる薬剤師の範囲が狭くなってきている、と。

あとは個人系、中小系の企業で、処方箋が減ってしまって経営が危ない、みたいな話を以前にも増して聞くようになりました。特にマンツーのところが厳しそうです。

このコロナの話って、4月末の時点でも一度させて頂いたじゃないですか。そのときは「あまり変わっていない」と仰っていたと思うんですが。

そうなんですよ。そのときは確かに特段の変化は無かったんです。しかし、5月の下旬あたりからだいぶ潮目が変わりましたね。

星谷さん、この辺りっていかがですか?

そうですね。ほとんどの薬局で処方箋枚数が減っていますから、求人ニーズが減るのは当然かと。妻の勤務先の薬局も、1ヶ月の売上が600万円減という感じだそうで。1薬局で600万減って、結構しんどいなと思っていて。

それって元の売上はいくらなんですか?

ちょっと聞けていないので分からないですが、察するにおそらく月間1,500〜2,000万円くらいだと思います。

てことは3割〜4割減ですか。すごいな。

売上が3割消えた、というのは私もよく聞く話ですね。特に、整形外科のクリニックマンツーがかなり厳しいと聞きます。お年寄りの患者さんたちが、外出自粛でシップを貰いに来ないんだそうで。

妻の薬局の場合は、花粉症シーズンに耳鼻科側の外来が大きく減ったというのが要因のようです。メンタルの方は、あまり変化ないみたいですが。

日本保険薬局協会(NPhA)は11日の定例会見で、会員薬局の管理薬剤師を対象に行った新型コロナウイルス感染症に関する調査結果を公表した。それによると、4581件の有効回答件数のうち、月間処方箋受付枚数が前年同時期と比べ「減少」したとの回答は86.9%と9割近くに上った。減少幅は、「10~20%未満減少」が28.1%と最も多かった。

引用:【NPhA調査】処方箋枚数、約9割が「減少」‐新型コロナ、薬局業務に影響|薬事日報ウェブサイト

処方箋枚数が減ると薬剤師の業務は暇になりますから、そうなると「人は要りません」って話に絶対になると思っていて。で、切りやすいパート、ないし派遣から切っていく。正社員については、雇用責任があるので残す、と。

すると新規の採用は当然ストップしますよね。

実際、大手各社は中途採用をかなり絞っているのが見て取れます。なかには中途を一切ストップしている会社もあります。

派遣についても、時給3,000円だった方々が2,400、2,500円に下がっているという話をかなり聞きますね。

「それ通常のパートの時給じゃん」って話ですよね。

はい。派遣会社としても、今は送客が難しいでしょうし。実際、派遣事業をたたむ会社も出てきていますしね。

こういうときって、良い企業、いわゆる人気企業の求人ほどすぐ閉じるんですよ。

直近で人気の薬局って、余剰人員を抱えていて1人あたりの処方箋枚数が少ないところが多いんですけど。そういうところは余剰人員を足りていない店舗に移動させて、1人あたりの枚数を20→30,35とかにすることで、この局面を乗り切ろうとしているんですよね。

なるほど。

あと人気企業だと通常、新卒採用も成功しているので。4月入社から現時点でもう3ヶ月経っていて、ほぼほぼ薬剤師が独り立ちをし始めていますから、中途はより要らないですよね。

3ヶ月で新卒を切るわけにはいかないですしね……。

はい。そうなると他から採るのを止める、という感じになるかと。

雇用形態別、いま転職しちゃってOK? NG?

求職者側の変化についてはどうでしょうか。

求職者側は、現職がパートおよび派遣の方が、契約更新がなかったという理由で紹介会社に登録するというケースがかなり増えていますね。

解雇、って感じですか。

はい。だいたい3ヶ月更新とか、1年更新とかの条件で雇用されているので、このタイミングで更新時期が来たら、更新をせずにそのまま終了って感じです。

ご要望としても、パートや派遣から正社員になりたい、という感じで登録される方が増えているようです。雇用の不安定さを気にする方が増えているということですね。

やっぱりみんな、大手に行きたいという感じなんですか?

大手志望の薬剤師は、コロナ前より増えていますね。例えば仮に、中小企業で年収580万円、大手企業で年収520万円で内定が出ているときに、年収520万円の大手を選ぶ人が増えている、という感じです。

へー。それで大手を選ぶんですか。

兎にも角にも「安定」ですね。イメージだと思います。例えば店舗数でいうと、15,16店舗の企業と、500店舗の企業で比較したら、500店舗の企業のほうがなんとなく良さそう。こういう感じです。

当たり前なんですけど、こういう時期に大手企業は安定性をアピールするんですよね。「うちは大手なので盤石ですよ、上場もしていますし」という感じで。

悪いのが、それに便乗して紹介会社のアドバイザーが不安を煽るんですよ。

「併願先ってどちらですか。……え? すいません、聞いたことない会社です!」とか。ま、大手の人事の方はわざわざこんな無理くりなクロージングはしないでしょうけど、紹介会社は普通にするので。

これは嫌ですね。笑

なので、ご要望が大手に偏る傾向はしばらく続いちゃうだろうな、と思います。

今この状況でも、転職を考えている薬剤師の方ってけっこう居ると思うんですけど、その方たちはどうしたら良いんでしょうか?

まず、仕事がなくなっちゃった人は全力で次の仕事を探したほうが良いです。同じ境遇の方が少なくないので。椅子取りゲームです。いまは、条件にもこだわらないほうが良い。時間が経てば経つほど、年収が安くて労働条件が過酷なところが残っていきますから。

選んだり迷ったりするのは、内定を確保してから1週間、企業によっては1ヶ月くらいはできますしね。

次にまだ仕事がある方ですが、現職がパートの方は、契約期間があと半年残っているようであればいま無理して動く必要はありません。なぜなら、椅子取りゲームが熾烈に行われている状況で、わざわざ椅子に座っている自分がいま動く必要がないからです。

椅子、空いちゃいますもんね。

そうです。だったら今の椅子で、って話で。

正社員の方もパートと一緒ですが、経営が傾いていない限りは残ったほうが良いと思います。ただ、傾いているかどうかは正社員のほうがよく分かるはずなので、やばいというのが明らかに見て取れるなら動く、という感じかなと。

一方で派遣の方は状況が異なり、3ヶ月以内に切られるか、あるいは次の職場が案内されない可能性が高いので、その想定で危機感を持って動いたほうが良いです。

動き方としては、まずは派遣先に「ここで雇用してもらえないか」という話をしておくのが一番良いと思います。条件は多少悪くなるんですけど、気の知れた同僚と気の知れた患者さん、よくわかる処方箋ができるってだけで、ストレスはだいぶ軽減されます。

ありがとうございます。星谷さんいかがですか?

基本的に、考え方はドラおじさんと一緒です。付け加えるなら、いま椅子に座れていて大丈夫だったとしても、向こう2, 3年先もいまの椅子にずっと座っていられるかどうかは、保証できないですよね。

ですね。この2, 3年だけでも相当に変化していますし。

例えば今まで1日平均30枚ぐらいでやっていた薬局さんも「ごめん無理だわ、やっぱ40枚頑張って」みたいな話をするしかなくなると思っていて。

その状況の中で、自分のスキルの幅を広げる、視野を広げるというのはマストでやっていく必要がありますし、まだあまり自覚がない方はこのタイミングで意識を変えたほうが良いと思っています。

アフターコロナの薬局業界。今後どう変わる?

星谷さんにお伺いしたいんですけど、処方箋1人1日35枚とか40枚って、どれくらい辛いものなんでしょうか? 僕、薬剤師じゃないんでそこが分からなくて。

そうですね……薬剤師が複数人いる中での1人当たり枚数か、純粋な1人薬剤師か、更には医療事務さんが居るかいないかにも依るんですけど。

純粋な1人薬剤師で医療事務さんが居ない場合は現実、1人30枚で既にクソ忙しいです。

じゃあ、1人で40なんて言ったらもう……。

ムリムリ、という感じです。加えて、粉薬とか一包化が間に入ろうものなら、もう無理です。仮に1日8時間で計算すると、40枚で8時間だから、1時間に5枚。12分で1枚ですよ。

その12分の間に服薬指導も入るんですよね?

もちろん入ります。薬歴を書くのも入ります。受付して、入力して、ピッキングして、監査して、薬歴確認して、服薬指導して、というのを12分以内に終わらせないといけない計算になります。

それ、服薬指導をぜんぶ「はいこれ見ておいてくださいね」で終わらせたら、ギリギリ行ける感じですか?

薬剤師の責務としてその服薬指導ではNGですが、それならいけます。1分で服薬指導、みたいな感じになります。

「何かお変わりありますか? ないですね。1日3回飲んでおいて下さいね。お大事にして下さい。」こんな感じがずっと続くんだったら、事務なし40でもいけます。

いつも貰ってる薬だと、だいたいそんな感じですよね。

ただこれが、話好きなおばちゃんとかに捕まると途端にシビアになります。で、後ろにすごい行列ができて、真ん中くらいでお待ちの男性に「軟膏1本なんだけど!いつ出るの?」みたいなことを言われたりします。

すごいリアルですね。ただこれ1日20枚くらいになると、今度は利益的に怪しくなってきちゃいますよね。

そうなんです。なので、下手な薬剤師よりもテキパキと自分の指示で動いてくれる医療事務のパートさんが欲しいというのが、現場の薬剤師の切実な思いだったりします。

デキる事務さんさえ居れば、受付、入力、お会計、このあたりの業務が全部パスできるので。さらに今だと、胸を張ってピッキングもお願いできますしね。

星谷さんご自身は、忙しいとき最高で何枚捌いた、とかあるんですか。

私は、事務さん無しの1人薬剤師で朝9時から夜9時で1日38枚やったことがあって、これが最多です。まあ〜死にましたし、間にクレーム2件もらいました。

どん兵衛って、あるじゃないですか。その日、休憩室で5分で食べようと思って作ったんですけど、忙しすぎてそれすら食べられなくて。

で、15時ぐらいにやっと落ち着いて食べられるようになったと思ったら、どん兵衛の汁が無くなってて。麺が汁を吸いすぎてふわふわのスフレみたいになってて、もう箸でつかめないんですよ。

38でそれなんですね。

だから厳しいんですよね、40って。30でもけっこう厳しい。30枚を事務さん無しで毎日1人でやらされていたら、普通は1週間で嫌になると思う。

いまコロナ禍で、企業の人事サイドの方々が人件費の見直しを本格的に始めていらっしゃるイメージがあって。ちょうどテクニシャンも解禁されているという中で、いまの星谷さんの話、ものすごくリアルだなと思っていて。

やっぱり薬剤師、どんどん要らなくなっちゃうんですよね。しかもそれに加えて、2024年に40枚上限の撤廃が噂されているじゃないですか。

これが入っちゃうとますます、効率的にさばけて、デキる事務さんをうまく使える、上手に店舗を回せる薬剤師の需要が高まっていく。そして、逆にどんくさい薬剤師はどんどん需要が無くなっていく、と。

企業側からしたら一番欲しいのはやはり、テキパキと動ける若手薬剤師なんですよ。

一方で変にこだわりをもって、要は利益を計算せずに服薬指導を長時間やってしまう、全体最適を考えられずに自己流の調剤をしてしまうような薬剤師は、いらないって話にどうしてもなっちゃいますね。

経営視点というか、利益の話がわかる薬剤師じゃないと今後は厳しいですよね。

はい、ただ現状あまり居ないですけどね。私が採用担当をやっていたときはほぼ資格採用だったので、マトモな方であればだいたい採用していたんですけど。普通に考えてそのハードルも上がっていくだろうなと。

これ辛いだろうなと思うのが、これまで「医療職」という自負を持ってずっと仕事をしてこられた薬局薬剤師の方々が、急に一般企業のサラリーマンのごとく、利益を出すことを強く求められるようになってしまったことなんですよね。

だってつい3,4年くらい前まで、患者至上主義、みたいな薬局さんがけっこう多かったじゃないですか。それが今では「いやいや、あなたビジネス分かってる?」みたいなトーンになってしまって。

まあそこは今までは、会社の利益の話って薬剤師にウケが悪いので、あえて採用の場では各社あまりしてこなかっただけだと思うんですよね。

「利益? そんなのはいい、大丈夫! ウチ、めっちゃ売上あるから! だからどうぞ、あなたのやりたいようにやって、薬剤師マインドを存分に発揮してください。それでうちはオッケーです!」みたいな。

なるほど。笑

ただ今はもう、そんなことを言っている場合ではないので。2024年もそうだと思いますし、今後も年々厳しくなるのは目に見えていますからね。

まとめ

コロナ禍中の転職ってどう?

  • 雇用が安定してる場合は基本、やめとこう
  • 仕事が無くなった人は全力で椅子の確保を
  • 利益の話がわかる薬剤師になろう

ちょっと話は変わりますが、先日ニュースになった「新型コロナで奮闘する医療従事者に慰労金を給付します」という話のなかで、薬局薬剤師が慰労金の給付対象に入っていなかった、というのが薬剤師のコミュニティでは話題になっていて。

あれはショッキングでしたね……。

薬剤師、外したのかぁ〜と思って。でも、それが世の中の評価なんだろうなと私は思いました。この評価を変えていかない限りは……と。

実際に私も、コロナ感染者を受け入れている病院薬剤師の知人が「薬剤師は居ても何もできないから出勤すんな!」と医師に言われた、という話を聞いています。

ひどい話ですね。

コロナがきっかけというか、背中を押してくれてしまった感じですけど、薬剤師の立ち位置とか、薬局やドラッグストアの扱いとか、いろいろなことが明確になりましたよね。まだまだ、収束しきらないですけど。

ちなみに星谷さんは、今後、現場の薬剤師に戻られるご予定とかはあるんですか?

薬剤師資格を持っているとは言えどサラリーマンなので「現場に戻れ!」という社命が出た場合には逆らえないですが、個人的には敢えて現場に戻る選択はしないですね。

患者様から直に「ありがとう」の言葉がいただける環境は捨て難いのですが、調剤室の中にいるより調剤の蚊帳の外に出た方が圧倒的に自分の視野が拡がりますし、色々な仕事に出会えると感じているからです。

確かにいま星谷さん、アドバイザーをされながら法人営業もされたり、自社サイトの制作とかウェブ広告とかも見られてますし、めちゃめちゃ色々やられてますもんね。

どんな分野でも良いのですが、薬剤師+αのスキルがあることによって他の薬剤師にはない、自身の強みにできる武器が1つ増えると考えています。更にそれが世の中に求められるスキルであれば、+αではなく×αくらいの価値が出ると思っています。

先の話題でもありましたが、こういう他には無い点が今後の薬剤師業界を生き抜くために必要不可欠、と個人的にも考えているので、新しいことに出会える頻度の高い今の環境のほうが自分の希望に合っていますね。

ありがとうございます。今回の対談、思いのほか面白かったんで、ちょっとまた別のテーマでも実施を検討したいと思います。おふたりとも今日はありがとうございました!

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