ドラおじコラム
薬剤師が薬局を独立開業するのってどう? 儲かる? 理想と現実を転職のプロに聞いてみた
こんにちは! 薬剤師のみどりです。
あなたは「開業ってなんかカッコいいからやってみたい」「自分の薬局を持って一旗あげたい」と考えたことはありませんか?
起業って、華やかに見えますよね。このまま会社を続けていても昇給は見込めなさそうだし、いっそのこと辞めちゃおう!と考える方も居るかもしれません。ただ、薬局の開業ってなかなか思うようにいかないようなんです。
当サイトを監修している薬剤師転職のプロ・ドラおじさんのもとには、同じような悩みを抱えた薬剤師さんが何人も相談に来ているとのこと。今回は「薬局の開業」をテーマに、開業の理想と現実についてガッツリと聞いてきました!
登場人物紹介
- ドラおじさん
- 薬剤師専門の大手人材紹介会社に勤務していたアドバイザー。薬剤師転職のプロ。見た目はメタボだけど仕事はめちゃくちゃ頼りになるおじさん。(ドラおじさんの詳細はこちら)
- みどり
- 当サイトのナビゲーターで、都内の製薬会社でDI・学術担当として従事している設定の薬剤師。中の人は薬剤師が監修してます。全国の悩める薬剤師たちを代表して、きわどい質問をドラおじさんにバンバンぶつけていきます!
今回のテーマは「薬局の開業」です。ただ、私自身はあまり興味がなくて……。薬局を開業するのって実際どうなんでしょう?
そうですね。今後のキャリアに「開業」という選択肢をあげる薬剤師さんは、一部ですけどいらっしゃいます。男性が圧倒的に多いですが。年齢は、若い方からお年を召した方まで幅広くいらっしゃいますね。
ただ、実際に開業するにはいろいろな壁があります。今回は開業の難しさを含め、将来独立を考えている人のためのキャリアプランをいくつか紹介しますね。
よろしくお願いします!
1.薬局の開業は、よほどのことがない限りやめとけ
わたし、そもそも薬局がどうやってできるのかとか、全然知らないんですけど。
じゃあ、そこから話しましょうか。薬局の開業って言っても、やることは飲食店とかを出すのとあんまり変わらないんですよ。
具体的には、まず立地を選んで、物件を選んで。内装を決めて、入れる機材を決めて。薬の仕入れ元をどこの卸会社にするのか決めて。近所の病院とかクリニックとかに挨拶に行って。事務員さんと、薬剤師さんを雇って。
あと、保健所への申請が必要なんで、それもちゃんとやって。こんな感じですね。これでもう、開業です。
やることが多くて大変そうですね……。
いや? 開業するの自体は正直そんなに大変じゃないって聞きますよ。私はやったことないんで、実際のところは分からないですけど。薬局で働いたことがない人でも開業できているぐらいなんで。
へー。そんなのでもいけるんですか。
はい。元MRが開業とか、結構ありますよ。
そうなんだ。あれですよね、開業するにあたってお金もすごい掛かりますよね。
はい、初期費用としてある程度まとまった資金が必要です。ただすみません、いくら必要かっていう具体的な数字はちょっと私には分からないですね。立地とか、あと機材をどの程度用意するかによって変わるとは聞いたことがあるんですけど。
ま、そこはググっていただくとして……薬局の開業って、そもそもどうなんですか? おじさんは、独立したいとか、薬局を開業したいって薬剤師さんが相談に来たら、何て返してるんでしょうか。
相談される度に、強く反対しています。
そうなんですかwwww なんでダメなんですか?
儲からないからです。薬価改定って、定期的にあるじゃないですか。これの影響で、開業というのは既に儲からないものになっています。いま個人で薬局を始めるメリットはほぼ無いです。
もう少し具体的に言うと、個人だとまず薬の仕入れ値を抑えられないんですよ。
仕入れ値を抑えられない……? って、何ですか?
卸とかメーカーの力が強くて、いわゆる「薬価差益」がまともに出る価格で薬が仕入れられないってことです。これが本当に無理で、個人だとまず経営が成り立たないと思います。薄利多売をしないと生き残ることすらできません。
じゃあ、個人はもう為す術ないんですか。
そうです。今、個人薬局は身売りに必死ですよ。どんどん買収されていますから。ホントに、まっっっったくおすすめできないですよ、開業なんて。
これが例えば、よっぽどドクターとコネが強くて、かつそのドクターが若いんだったらまだ良いんですけどね。向こう30年は処方箋を取りっぱぐれることが無く、かつ自分1人でやって1日に数十枚をさばきますっていうなら、ある程度は儲かりますけど。
馬車馬のように働く感じになりますね。
そう、だったら辞めたほうが良いと思います。
あるいは、駅前の好立地に格安で物件を押さえられた、とか。それなら土地代がかからない分、儲かりますね。でも普通は、そんなに都合よく格安物件を押さえられるなんてあり得ないですから。
じゃあ、薬局の開業は相当難しいってことですね? なんか夢見て勘違いしてるみたいだけど、現実はそんな甘くねえぞ、お前ら!!! ってことでいいですか?
非常にハードルが高いと思います。いろんなものが重ならないといけないので。
否定しないんですね。笑
個人だと、仕入れ値を抑えられないのに加えて、不動産の確保も難しいです。不動産はドクターのコネで確保しているケースが多いですから。元MRが開業する事例が多いのは、それが理由なんですよ。
2.開業じゃなくて、キャリアアップも検討してみたら?
開業したいと思う薬剤師さんっていうのは、どういう人なんですか?
まず多いのは、儲けたいっていうタイプの方ですね。「薬は儲かる」と思っていらっしゃる方がまず、開業したがります。
そこはかとなくバカにしてますよね……笑
儲けたい以外のご相談内容としては、いつか自分の店を持ちたい、一国一城の主になりたい、社長になってみたい、とかですね。あと、自分で思い通りの展開をしてみたい、好き勝手やってみたい、とか。
単純な興味なんですけど、そういう人が「開業したい!」って思う具体的なシーンってあるんですか? なんか、雑誌を読んでかっこいいと思った、とか。
テレビとか、雑誌で「社長」って類のものを見て憧れるケースはもちろん多いですし、あとは人から話を聞いて興味を持つケースも多いです。自分と同じ年代の薬剤師が起業している話を聞いた、とか。あとは単純に、通常業務に飽きた、とかもありますね。
えーっと……で? おじさんはそういう方々に対して「やめたほうがいい」って反対をされるわけですよね。
はい。
それって、そのあとどうなるんです?「なんでですか!」とか絶対、言われるじゃないですか。なにか、別のアイデアをご提案される感じですか?
そうです。まず、お金を稼ぎたいってタイプの方には「いくら稼ぎたいんですか?」って聞きます。そうするとせいぜい1本、年収1000万円くらいなんですよ。それって、独立せずに自社内でキャリアアップしていただければじゅ〜ぶんにいただける金額なんですよね。
へー、そうなんですか。じゃあ、開業なんてする必要ないじゃないですか。
そう。しかも会社勤めをしていれば、家族手当とか、福利厚生もありますし、会社のほうで生命保険に入ってくれる場合もありますし。このまま会社にいたほうが安心ですよ、という話をします。
じゃあ、お金とかじゃなくて「社長になってみたいんだ!」みたいな人の場合は?
基本的には「人の上に立ちたい」っていうことなので。それは、自社内でキャリアアップしなさいよって話になります。もしくは、大手で管理職ポジションが多くある環境に身を置いて活躍しましょう、っていう話をします。
で、そう言うとたいてい「いやそれは無理でしょう」って言われるんですけど。全然、無理じゃないです。
薬剤師ってそもそも、キャリア志向のある人間がほとんど居ないんです。だからどの会社も、中間管理職がいなくて困っているんですよね。そういう状況なので「あなたなら大丈夫です」っていう話をして、ポジションアップを目指していただくケースが多いです。
じゃあ、結論「キャリアアップすればいいじゃん」って話なんですね。
そうです。
この場合のキャリアアップっていうのは具体的に、どうやればいいんですか?
それは簡単で、希望すればいいだけの話です。薬局に入って「キャリアアップをしたいです」という宣言をして、あとは上から言われた事をきちんとやっていれば、たいていはキャリアアップできます。
そんなにサラッとキャリアアップできるもんなんですか。
できます。加えて、店舗企画とか、処方箋をより多く集めるための提案とか、ドクターとのやり取りを円滑にするために自分がドクターの所に営業に行く、とか。そういう事を自分でどんどんやっていけば、もう自動的にキャリアアップできます。
なるほど。しかもそれって、仮に開業するとしてもどうせやることですもんね。
そう、そこなんです。元々、それがやりたかったんですよね?って話。
キャリアアップは、薬剤師さんが自分で「やりたい」と言えば大体の場合はできると思いますよ。よほどコミュニケーション能力が低くなくて、ちゃんと意思疎通が取れて、人の話を聞くことができれば、基本的にはキャリアアップは可能です。
でも開業したがる薬剤師さんたちは、その辺のことを知らないってことですよね。なんか、もったいない話ですね。
そうですね。「上が詰まっている」って勘違いをされている場合もありますし。あと、薬局業界のエリアマネージャーとか薬局長の年収帯を、みなさんご存じないんですよね。
確かに、知る機会は無さそう。私も知らないですし。
実際、開業をしたいっていうご相談に来られる薬剤師さんって、役職を持っていない方が多いんですよね。だから、エリマネとか薬局長でも実際にこれくらい貰えているんですよって話をしてあげると、みなさん安心して下さるんですよ。
そうすると、そもそも独立する必要なんてないじゃん?って話になります。特に年収1000万円とか、それぐらいの額のお金がモチベーションだった場合はそうなりやすいですね。
3.それでも独立したいなら、フランチャイズも考えて
「薬局の開業なんて儲からないからやめとけ、それよりキャリアアップしろ」っていうのがおじさんの主張なわけですけど。それでも独立したい!っていう人もいますよね。その場合はどうするんですか?
これは2パターンあります。1つは「もっとお金が欲しいんだ」って人。年収1000万円なんかじゃ全然足りない。年収1億円欲しい。店舗を立ち上げて売却して、3〜5億円くらい稼ぎたい、とか。こういう「腹座ってんな〜」と感じられる方は、もう全力で開業を応援しますね。
すっごw 起業家マインドがめちゃくちゃ高い人ですね。
もしそのくらいやる気があって、かつ、ドクターとのコネを持っているとか。あるいは、良い立地に安く不動産を確保できる見込みがあるとか。そういう好条件が揃っているんだったら、すぐに開業したほうが良いですって話をします。
その場合は、開業にあたっての具体的なアドバイスまでします。例えば、立地はこういう場所を押さえると良いとか、こういう場所なら高く買われやすい、とか。
そんなことまで知ってるんですか?!
そんなに詳しくはないですよ。私が知っている範囲で教えるだけです。ただ、そのパターンで起業までこぎつけた人って、私が過去にご相談に乗った方の中だと1人しか居ないんですけどね。
確かに、本当に本気で開業を考えている人は、キャリアアドバイザーに相談なんてしない気がする……。
で、もう1つのパターンは「開業へのこだわりを捨てきれない、でもまだちょっと不安」ってタイプの人。1,2年、もう少し勉強してから開業したい、とか。
そういう方には、独立支援に取り組んでいる会社とか、あとはフランチャイズ制度を持っている会社をご案内しちゃいますね。で、そこで1年とか2年とか期限を決めて「起業ごっこ」をやって見極めてみるのはどう?という話をします。
いや「起業ごっこ」てw
2パターンの中だとこの「勉強してからやる」という方のほうが断然多いです。ただ、勉強してからやるって言っている人は多分、起業できないでしょうけどね。
まあ……そうですよね……。
そういう会社にご案内した方で、自分で開業したという報告をもらった事も過去に1度もないですし。だから、そういう人はフランチャイズでいいんじゃない?って思うんですよね。フランチャイズでも良いって言うなら、それはそれでアリだと思っていて。
フランチャイズっていうのは、具体的に何が良いんですか?
まず、薬をグループ会社で買ってくれるんですよ。そうすると、薬の仕入価格を安く抑えられます。なので、個人薬局で陥りがちな「売れば売るほど赤字」っていう状態は免れます。
なるほど。多少マシなんですね。
あと、必要な機材も入れてもらえるし、もともと付き合いのある会社も紹介してもらえるし。人材も、足りなくなったら供給してもらえるし。あともし万が一潰れても、大丈夫なようになっていますし。
ただ、フランチャイズの間はロイヤリティを取られますから、大儲けは期待できません。当然、売却しても大したお金にはなりません。あと、フランチャイザーの縛りがありますから、個人のように好き勝手することもできません。
それって……会社勤めしてるのと、ほとんど変わらなくないですか?
そうですよ。ほんと、形だけ。だから基本的にはオススメしません。
なるほど。笑
まとめ
薬局を開業したい薬剤師さんへ
- 儲からないので辞めたほうが良いですよ
- 年収1000万円くらいなら開業しなくても稼げますよ
- 年収1000万円じゃ全然足りない人は開業すればいいと思う
- キャリアアップって意外と簡単ですよ
開業をしたい薬剤師さんを応援するための記事なのに、おじさん、反対しかしていないじゃないですか!
まあ、いつも話している内容を喋っただけなので……。さっきも言いましたけど、どうしても大金を稼ぎたい、そのために開業したいっていうんだったら、今すぐにでも始めるしかないです。早く始めないと、買収価格が高くならないので。
それって、買収価格がだんだん安くなってきてるってことですか?
だんだん安くなってきていますし、だんだん買われなくなってきています。そして経営が立ちゆかなくなって赤字になった瞬間に、買ってもらえなくなります。何とかして早めに黒字にして、黒字の状態で売らないと駄目です。
売却っていうのが、薬局の開業における1つのゴールだって事ですね。
そうです。ただもう、時期的にはほとんど手遅れですけどね。数年前はまだ、ギリギリ間に合ったんですけど。だからよっぽどコネとか諸々がない限り、今から開業するのは本当にやめたほうがいいと思いますよ。
もう、遅いんですね……。
まあもちろん、売却だけがゴールなわけではないです。自分の理想とする薬局を自分で作るんだ!って言って、頑張って開業するというなら、遅いとかは無いですし、それはそれで素晴らしいと思うんですけどね。
ただ私自身は、薬局業界は「大は小を兼ねる」だと思っているので。薬剤師のキャリアって視点で考えると、うーん、って思っちゃいますね。やっぱり。
んーなんか締まりのない終わり方ですけど、開業を考えるくらいやる気とガッツのある薬剤師さんには、なんとか報われて欲しいですね、はい……。
- 最終更新日:2019年6月11日
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