みどりの進路相談室
薬剤師の未来は? 薬剤師が将来なくなる職業って本当?
僕は将来、薬剤師になりたいと考えています。けれど、薬剤師になりたい人が増えていて何年後かには薬剤師が余ると聞きました。
また、機械化が進むことよって薬剤師は将来なくなる職業だという噂もあります。僕は、このまま薬剤師を目指していいのでしょうか。とても不安です。
10年後、20年後の薬剤師の仕事は、今とは全く違うものになっているはず。それでも、薬や健康に興味を持って学び続けられれば、ずっと必要とされる薬剤師でいられると思うよ。だから先のことを気にしすぎるよりも、今興味があることを大切にしようね。
登場人物紹介
- けんと
- 男子中学生(3年)。生徒会長をやっており、クソ真面目で堅物。心配性すぎてときどき取り乱す。
- みどり
- 当サイトのナビゲーターで、都内の製薬会社でDI・学術担当として従事している設定の薬剤師。中の人は現役の薬剤師が監修してます。普段は質問をぶつける役ですが、ここでは私がぶつけられる側です!
1. 薬剤師は余っていない、むしろ不足している
「薬剤師が増えすぎて余る」っていう話は、私が学生のときから言われているけど、10年以上が経った今でも薬剤師が増えすぎているなんてことはないし、むしろ地方では薬剤師が不足しているよ。
そうなのですか。では、なぜ「余る」と言われているのでしょうか。
まず、国が薬剤師の数を増やすために、薬学部の数を増やしたんだよね。
なぜ薬剤師を増やした……?
それまであいまいだった医師と薬剤師の仕事をきちんと分けることで、薬剤師の仕事が増えたからだよ。
ということは、昔は医者が薬剤師の仕事もしていたということですか?
そう。医師が診察して薬も病院で渡していたんだよ。
だけど、薬の準備や説明、受け渡しに関しては専門の薬剤師に任せた方が、内容をダブルでチェックすることもできるでしょ?そうすればミスも防げるし、医師も自分の仕事に集中できる。
こうやって仕事を分けることで、必要な薬剤師の数が増えたの。だから薬学部を増やして、薬剤師を増やそうって。
なるほど。
……って、やっぱり薬剤師は増えているじゃないかぁ!!!
と思うでしょ?でも、薬剤師になるために受けなきゃいけない薬剤師国家試験の合格者は、毎年ずっと1万人くらいで、大きく変わっていないんだよ。
ん?つまり、合格できない人が多いということですか?試験が難しくなっているのですか?
試験のレベルは変わっていないよ。薬学部が増えたことで、入学するのが簡単になったの。
でも、学力が足りなくて大学の勉強についていけない学生がたくさんいてね……なんとか卒業しても、薬剤師国家試験に合格することができないんだ……。
だから合格者の数があまり変わらないんですね。
ですが、毎年1万人も新しい薬剤師が働き始めているというのに、足りていないというのですか?
うん。もちろん薬剤師の数は以前より増えてきてはいるんだけど、十分ってわけじゃないんだよね。
薬剤師国家試験に合格した人、全員が薬剤師として働くわけじゃないしね。薬剤師免許を取っても、薬剤師免許がいらない仕事に就く人がたくさんいるんだよ。
なんだって!?せっかく薬剤師免許を手に入れたというのに……。
薬剤師免許を使わなくても、薬学の知識はいろんな仕事で活かせるからね。例えば、製薬会社の営業職とか、化粧品会社の研究職とか。
薬剤師免許を持っている人はみんな、薬局や病院で働くものだと思っていました。
他にも、薬剤師が足りていない理由として、薬剤師は女性が多い職業で、結婚や出産をきっかけに仕事を辞める人もいるからっていうのもあるね。
であれば、薬剤師が増えすぎて仕事がなくなる、なんてことはなさそうですね。
そうだね。でも「今の薬剤師の仕事」は、なくなるかもしれないね。
なっ!!?
2. 機械化が進んでも、薬剤師にしかやれないことはある
さっき言いましたよね?「薬剤師が増えすぎて仕事がなくなるってことはない」と。
うん、そうなんだけどね。最近は機械化が進んでいて、今まで薬剤師がやっていた仕事を機械がやっていることも少なくないんだ。実際に、薬の準備は機械に任せて少人数でやっている薬局も増えてきているし。
ほらぁ! やっぱり機械に仕事を奪われ始めているじゃないかぁ!!!
そんなふうに心配する声もあるけど、機械化されるメリットもあるんだよ。
メリットなんてあるわけないじゃないかぁ!!!
お、落ち着いて(笑)
最近は少子高齢化によって、若い人の数が減ってきているでしょ?つまり、これから働く人の数が減って、どんどん人手が足りなくなっていくかもしれないってことなの。だから人手不足を解消するのに、機械は役に立つと思う。
なるほど。そういう考えもあるのですね。それで、他にも機械化が進んでいたりするのでしょうか。
うーん、最近だと、国民ひとりひとりに番号を与えて医療情報を管理しようっていう制度が提案されていたりするね。
医療情報を管理……?
患者さんの今までかかった病気とか、今まで使った薬とか、健康診断の結果とか、そういう情報をインターネット上で管理するの。
そうすることで病院や薬局は、患者さんの情報をインターネット上でチェックできるようになるんだ。
この方法なら、薬剤師はどこからでも薬の準備ができるようにもなるでしょ。患者さんへの薬の説明もインターネット上でできるし、薬も宅配で届けられるし。患者さんもわざわざ薬局に行かなくても済むようになるかもね。
それはちょっと便利そうです。
しかし! そのように機械化が進んでいけば、やはり薬剤師の仕事は減りますよね!?
そうかもしれないね。でも、機械にできるようなことは機械に任せてしまって、薬剤師は薬剤師にしかできない仕事に集中できるって考え方もあるよね。
薬剤師にしかできない仕事、とは……?
例えば、患者さんとコミュニケーションを取ることは、薬剤師にしかできない仕事だよね。
ちょっと待った! 最近は人間とコミュニケーションを取れるロボットもあります。薬の説明も機械ができそうです。むしろ機械の方が得意だと思いますが。どうです?
そうだね。薬の説明だけであれば、機械のほうが得意かもしれない。だけど、患者さんとの会話を通じて「この人はこの薬を飲むことに不安を感じているな」なんて気付くことは、機械にはできないことだと思わない?
それに、患者さんも機械相手だと相談しにくいと思うんだ。「実は薬をきちんと飲めていないの」とか「この薬ちょっと飲みにくいな」とか。
たしかに、機械に「相談」しようとは普通は思いませんね。
機械はたくさんの情報を集められるし、その情報を一方的に提供することは人間よりも得意なの。だけど、コミュニケーションを通して患者さんのことを細かく気にかけたりすることは、機械にはできないよね。
そうかもしれませんが、未来はどうなるか分からないので、僕はとても不安です。
これから機械化が大きく進むにつれて、薬剤師に限らず、今ある仕事がなくなって新しい仕事が出てくると思う。でも、時代や社会の変化と共に働き方や仕事内容が変わることなんて、今までにも普通に起きていることなんだよ。
例えば?
そうだなぁ……私が生まれるちょっと前くらいまでは、駅の改札に切符を切る駅員さんが立っていたんだけど、知ってる? お客さんの切符を人力で一枚一枚ぜんぶ確認していたの。
きっ、切符って、改札機に入れるだけの券ですよね? あれを全部目で確認していたっていうんですか?! なんという無駄な労力……。
今ではほとんどの改札が機械化しているよね。だけど、今でも駅員さんは職業として存在している。機械化によって、駅員さんの仕事内容が大きく変化したんだよ。
医療に限らず、どの職業でももっと力を入れるべきことがあるだろうし。機械にできることは機械に任せることで、新しいことに挑戦していく余裕も生まれるんじゃないかな。
そう考えると、機械化で仕事がなくなることをそこまで不安に思う必要はない気がしてきますね。
3. 興味を持ち続けることが大事
ところで、どうして薬剤師になりたいと思ったの?
僕は小さい頃から体が弱くて、よく薬に助けられていたので、今度は僕が薬剤師になって、苦しむ人たちを助けたいと思ったからです。
はっ!……今、それなら医者のほうが良いのでは、と思いましたね?
え、いや、べつに思ってないけど(苦笑)
医者は目の前の患者さんを救うことができます。ですが、薬の開発だと世界中の患者さんを救うことができます。
それから、薬ってあんなに小さいのに病気を治すから不思議だなぁ、と。体の中でどうやって働いているのか、とても気になります。
ちゃんと「何をしたいか」まで考えていてスゴいね!「薬剤師になること」がゴールになっている人は多いけど、本当は「薬剤師になってから何をしたいか」が大事なんだよね。
ですが、具体的には決まっていません。この先、薬剤師の仕事内容が変わるかもしれないというのに、具体的に何をしたいのかを考えるなんて、さすがの僕でも難しい。
ははは……。
まぁ、未来のことなんて誰も分からないし、実は大人でも分かっていないし、いくら考えたところで分かるものでもないよ。でも、やりたい理由があるからみんな働いているんだよ。
だから、今話してくれた「人を助けたい」って気持ちや、目の前にある興味を大事にしてほしいな。
ですが、もう少し具体的な「薬剤師になって何をしたいか」を見つけたいんです。
そうだなぁ……例えば……。
世の中にはどういう問題があって、どういう対策が必要なのか? 治療が難しい病気がいっぱいあって、それに苦しんでいる人もいて、どうすれば助けられるのか? 私たちは当たり前に医療を受けているけれど、中には満足に医療を受けられない人もいる。
こういった現状を知っていくことで、「何か」が見つかるかもしれないね。
なるほど。では、その現状や問題点を、くわしく。
うーん、ちょっと難しい話になっちゃうんだけど、今の日本で深刻なのは「医療費」の問題だね。
医療費?
病院とかに行ったら、最後にお金を支払うよね。実はそのとき支払うお金は、実際にかかっている医療費、つまりお医者さんや看護師さんなんかに払うお給料や、お薬代なんかのごく一部だけなんだよ。
例えば、まぁこれは人にもよるんだけど、医療費が10,000円かかったとするよね。その場合、患者さんが払うのはその3割にあたる3,000円だけだったりするの。
とすると……残りの7,000円はどこから出てくるのでしょうか。
残りは、みんなから集められた「税金」と「保険料」によってまかなわれているの。
保険料って、税金とは違うのですか?
ん〜、ホントはぜんぜん違うんだけど……まあ、似たようなものかな(笑)
あと、入院が長引いたり、治療が難しい大きな病気になったりすると、たとえ3割負担だったとしても結構な金額になっちゃうんだよね。
だからそういう場合でも「医療費が払えません」ってならないように、患者さんが負担する医療費は収入に応じた上限が決められていたり、いわゆる「難病」の医療費負担は、そうでない病気よりも少なくなっていたりするの。
それから小学校に入る前の子供やお年寄りは、医療費負担が少なかったり、住んでいる場所によっては子供は無料だったりするんだよ。
なるほど、知らなかったです。弱者に優しい仕組みなんですね。
そう。この仕組みがあるおかげで「誰でも・どこでも・いつでも」医療を受けられるようになっているんだよ。これを「国民皆保険制度(こくみんかいほけんせいど)」って呼ぶの。
国民皆保険制度。
「税金」と「保険料」は、お金をたくさん稼いでいる人たちがより多く納めるという仕組みになっているの。日本の医療は、そうやって成り立っているんだよ。
だからこの先、ますます医療を受けるお年寄りが増えて、さらに少子高齢化が進むと、働いてお金を納める人が減っていくから、医療費が足りなくなって、この制度が成り立たなくなってしまうかもしれないんだ。
もし、そうなったら……?
今みたいに気軽に病院に行くことができるのは、お金持ちだけになるね。
なんだってーーーーーっ!!?
でもね、私たちは日本にいるから、病気になったら病院に行って治療を受けることが当たり前になっているだけなんだよ。
例えば、アメリカでは病院にかかるときの医療費がとんでもなく高い上に、国が助けてくれるような制度もないから、満足に医療費を払えない人がたくさんいるの。
治療のために貯金を全部使ったり、家や車を売ったり、借金したり。だからお金のない人は、病気になってもすぐには病院に行かないんだよ。
病院に行かないでどうするのですか!? ま、まさか、耐えるしか……?
ううん。病気になったら、まずは薬局に行って薬剤師さんに相談するの。市販薬で治れば医療費がそんなにかからないからね。
だからアメリカでは、薬剤師は医師よりも尊敬される職業なんだよ。アメリカみたいに、日本の薬剤師も気軽に病気や健康の相談をしてもらえる、国民にとって身近な存在になれたらいいよね。
ですが、アメリカのように国が助けてくれる制度がなくなるのは嫌ですね。
そうだね……。
日本も国民皆保険制度がなくなったら、アメリカと同じようになるかもしれない。そうならないために、薬剤師もできるだけ医療費を抑える活動をしていかないとね。
薬剤師にできることがあるのですか?
もちろん。すぐにできるのは、飲み残しの薬を管理することだね。
飲み残しの薬、とは?
誰でも毎日しっかり薬を忘れずに飲み続けるのって、難しいよね。そうすると患者さんの手元に薬が残ってくるから、薬剤師がその飲み残しの量を管理するの。
例えば、「今月は残っている薬だけで足りるから、この薬は無しにしましょう」って医師に提案したりね。その分の薬代がかからないから、医療費が抑えられるんだよ。
薬代も医療費に入るのでしたね。
そうだよ。あと、「ジェネリック医薬品」って知ってる?
テレビで見たことがありますね。たしか「安い薬」とかだった気が。
それそれ。ジェネリック医薬品は、既に販売されている薬の成分を真似して作ったものだから、開発費がかかっていない分、安く販売できるの。
だから、薬剤師がジェネリック医薬品を広めて使う人が増えれば、医療費を抑えることにつながるんだよ。
なるほど。 薬剤師になれば、できることがたくさんありそうですね。
そうだね。 医療費のこと以外にも、これからいろんな問題が出てくると思う。でも、どんなに技術が進んでも、人間の「健康でいたい、病気を治したい」っていう欲望はなくならないから、医療自体がなくなることは無いよね。
だから、薬剤師にできることって実はたくさんあるんだよ。いろんなことに興味を持って、現状や問題にも目を向けて、ずっと必要とされる薬剤師を目指そうね。
- 最終更新日:2022年3月3日
- カテゴリー:みどりの進路相談室